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国の指示権を認める地方自治法改正案に異議あり

5月7日に審議入りした、非常時における国の地方自治体への指示権を認める地方自治法改正案は、2000年の第1次地方分権改革において確立された「国と地方は対等」との関係性を大きく突き崩すもので、災害やパンデミックを経験しつつも、なぜ地方の判断より国の一律の指示に妥当性があると裁定したのか、極めて疑義ある改正案であると思います。

 

パンデミックや自然災害などを想定するならば、なぜ感染症法や災害対策基本法などで規定せず、地方自治法で一括規定しようとするのか。改正案は、「国民の生命等の保護を的確かつ迅速に実施するため講ずべき措置に関し、国は地方公共団体に必要な指示が出来る」とのことで、「国民の生命等」の「等」とあるため、実際にはなんでも指示の対象となり得ます。

 

感染症や自然災害以外にも、想定出来ていない非常事態が起こった時に、国が地方公共団体に指示が出来るようにする、という意図であろうと思われます。

 

「等」を含む単語による曖昧な指示権限の付与は、解釈者によっていかようにも権限を行使できるので、避けるべき立法行為と思います。特に今回は「国と地方の対等性」というダムに小さな穴をあけるようなもので、この穴は拡大しないのかどうか、普通に考えれば穴は拡大していくものと危機感を持つべきではないかと思うのです。

 

今般の地方自治法改正案の審議にあたっては、国と地方の対等性が、2000年の地方分権改革以降、本当に実現出来ているのか?というところから問い直すべきだと私は思います。

 

行政職員が国の判断に依存して市民の声を跳ね返している案件は、私が知る限りでも多く出会ってきました。せっかく対等になったのに、なぜ国に従うのか。市民の声を受けて国とぶつかってでももっと交渉を重ねるべきだと思いますし、それが自治体職員として働く生きがいにもつながるのではないかとも思います。

 

政治も同様です。国会議員に従属する地方議員は古色蒼然たる政治の姿です。国会議員と地方議員は対等性を維持した関係を築くべきです。公認権によって国会議員が地方議員を部下のように従えたり、メディアにおいても地方議員を国政選挙における「兵隊」に例えている記事をよく見かけますが、それらは「国と地方の対等性」が目指す世界とは対極にある姿であろうと思います。

 

自治体行政は、国の政策に対して、独立対等の精神をもって、住民のために働いてもらいたいと思います。地方議員も、住民のために働くことが第一であり、「国政選挙の兵隊」と言われるような地方議員像は払拭されていくように働いていかなければならないと思います。

 

国と地方の対等性を社会のなかで実現していくためには、まずは政治が、次に行政が、それぞれに関わる議員や職員が、心の中にしっかりと対等性の火を灯していかなければなりません。

 

2000年以降整備された地方分権の理念を現実社会に落とし込むところまでもまだ至れていないのが現状であるなか、国からの指示権を認める今般の地方自治法改正案は、国と地方の対等性の実現を一歩後退させると同時に、自治体が自らを独立して律する独立自尊の気風をも損ねてしまうものであると強く懸念しています。

 

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