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観光インバウンド政策としてのIR事業は破綻している。

【海外VIPからのカジノ収益は0%、海外旅行者からは17%】

 

香港のIRカジノ事業者ギャラクシー社が横浜から撤退して日本の他の地域での参入を目指すとの報道が流れた前日の5月19日、マレーシア最大の銀行メイバンクが「Konichiwa Yokohama ?」と題して30ページのレポートを公表しました。

 

マレーシアのIR事業者であるゲンティンシンガポール社についてのレポートで、ゲンティン社が横浜進出に良いポジションについていること、しかしリスク無しではないこと、横浜でのゲンティン社のカジノ収益(人件費や税等の経費を差し引く前の粗利)は年間70億米ドル(約7,700億円:1米ドル=110円換算)が予測されるなど、ゲンティン社の株式保有を含めて今後の予測が報告されています。

 

この収益予測は、日本とシンガポールのGDPや日本の競馬やパチンコ等の市場規模、日本のカジノ規制状況等から算出され、GDPについては、シンガポールは「都市国家」であるため全土のGDPを対象としていますが、日本は関東・関西・九州と分割して地域GDPを計算に当てています。

 

また、メイバンクは、日本のIR産業は、シンガポールのように海外からVIPが来てカジノ収益に貢献することはないと予測しています。シンガポールでは、IRカジノ収益の概して80%がVIPからの収益で、一般からのカジノ収益の約40%は海外旅行者から得られているとし、一方日本の場合は、海外からVIPが来てカジノ収益に貢献するのは0%、一般からの収益のうち、海外旅行者から得られる収益は17%と予測しています。

 

日本に海外からVIPが来ない理由としては次の3つを挙げています。

①日本ではジャンケットが禁止されていること。

②中国が国境を越えて賭博することを禁じ、中国人に賭博を勧めたり特に中国人VIPに賭博を勧めることを禁じていること。

③そして日本はシンガポールのようにVIPを魅了するような「Private Wealth Centre(私有財産の運用等に力点を置いた地域)」ではないこと。

 

メイバンクレポートの収益に関する予測概要を大きく3点羅列しますと、

①日本3か所(横浜、大阪もしくは和歌山、長崎)のカジノ収益総計は117億米ドル(約1兆2,870億円)。内訳は、横浜70億米ドル(7,700億円60%)、大阪か和歌山31億米ドル(3,410億円:27%)、長崎15億米ドル(1,650億円:13%)。

②横浜のカジノ収益70億米ドルのうち、58億米ドル(6,380億円:83%)が日本国内居住者から得られ、12億米ドル(1,320億円:17%)が海外からの旅行者から得られる。

③横浜のカジノ収益のうち、VIPから得られるのは85%、一般からは15%。VIPから得られる収益の50%がVIP用の宿泊・飲食・エンタメの費用に充てられる。なお、日本のカジノ収益のうち、海外旅行者のVIPから得られるカジノ収益は0%。

 

私たちにとって、このメイバンクの予測の重要な部分は、「海外から来るVIPから得られるカジノ収益は0%」ということと、「海外旅行者から得られるカジノ収益は17%」しかない、ということです。

※このレポートによれば、日本におけるVIPの定義は、預金額を1,000万円持つギャンブラーとなっています。

 

インバウンド目的のIRカジノ事業が、結局、カジノ収益の83%を日本人(日本国内居住者)で賄うものとなり、「将来市が潤って子どもたちのためになる」という横浜市長の主張は、関東圏の日本人の財産を犠牲に賭博で横浜市を潤わそうという主張となり、さらに、海外旅行者を呼び込むインバウンド政策としては完全に破綻していることになると思います。

 

メイバンクは、ゲンティン社は横浜でのIR参入にこれまでより良い位置にきたが、夏の横浜市長選でIR反対派市長が誕生すれば、IR事業のプロセスは「scrap altogether(すべてスクラップ)」されるだろうと述べています。

 

IR事業は、横浜市民にも、日本国民にも、非常に不正確な説明を横浜市や日本政府が繰り返して進められてきたものです。

 

今の日本政治・行政を覆う「嘘を言っても許され、市民国民が反対しても許される。」という異様な空気は、多くの有識者が指摘する「戦前の日本」そのものであるのだろうと思います。強い立場に立った者が、強い者たちに都合の良い論理を作り出して、その論理のために弱い立場の人々を再生産し続けてきた社会のありかたそのものこそ、いま大きく変革しなければならない政治の責務だと私は思います。

 

引き続き、IRカジノ誘致の阻止に向けて、全力で取り組んで参りたいと思います。

 

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